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破産者が個人の場合の税務申告はどう考えるか?

  • 2017-07-26 (水) 11:14

破産者が個人の場合の税務申告は、どう考えればいいのか、という話があります。

1.基本的な考え方

(1)基本的には申告が必要
 破産者が個人の場合、申告の種類としては所得税となります。

 まず、申告そのものが必要なのかどうかという点については、法人税の場合と同様、「個人が破産したからといってそれを以て税務申告の義務が消滅する」という旨の規定は存在しません。
 したがって「確定申告は行わなければならないのですか?」と問われれば、
「その破産者の暦年(1月1日~12月31日)単位で考えた時に、確定申告を行う必要がある場合に該当すれば、申告は必要です」
となります。

 申告の期間単位は、あくまで暦年単位で考えることになります。
 法人税のように、破産手続の開始により税申告の対象期間が区切られることはありません。
 したがって、個人の所得税の申告をするのであれば、1月から12月までの分を翌年の期限までに申告するという流れになります。

(2)破産管財人がどう関わるか?
 さてここで、(1)のような申告を「破産管財人が行わなければならないか?」と問われますと、これは微妙なところです。

 破産管財人は破産者の権利義務を包括的に承継するものではありませんので、
「申告作業そのものは破産管財人にとって、義務とはいえない」
と解釈するのが相当でしょう。

 そういう意味では「申告については破産者自身が(必要に応じて)行うものである」として運用している管財人も多いところです。
 つまりその意味では、管財人として、申告納付はノーケア(権限外)として扱っている。そんな感じですね。

 ただ、還付税額があるときには、ちょっと話がかわってきます。
 その税額が破産財団に組み入れることが可能なものであるならば、財団増殖という管財人の本来の職務上、積極的に申告すべきです。
 本人に申告をさせるか、管財人側で申告するか、そこは臨機応変に対応ください。


2.譲渡所得の非課税

(1)譲渡所得の申告作業は不要
 破産財団に属する不動産を処分した際には、個人の場合、原則的には譲渡所得の対象となります。
 通常の譲渡等ですと、取得価額を超える価額での処分となったときは、譲渡益が発生し所得税の対象となるのですが、管財業務遂行上の譲渡所得については、所得税は非課税です。

(所得税法9条:非課税所得)
次に掲げる所得については、所得税を課さない。
(一~九:略)
十 資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合における国税通則法第2条第10号(定義)に規定する強制換価手続による資産の譲渡による所得その他これに類するものとして政令で定める所得
(以下略)

(国税通則法2条:定義)
十 強制換価手続 滞納処分(その例による処分を含む)、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続及び破産手続をいう。

 破産者は「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難」です。このことに疑いはありません。
 そして「強制換価手続」には破産手続を含みますので、結論としては非課税です。
 非課税ですから、申告作業そのものを省略することになります。
 何らかの税務申告を行うことにより税額がゼロになる、というものではありませんので、税務申告は無視していただいてかまいません。

(2)税務署から照会が来ることもある
 ただ、税務署から問い合わせが来るケースがあります。

 一般的な話として、不動産の登記が動いた場合にはその情報が法務局から税務署へ流れるようになっています。
 したがって、「あなたの所有不動産の登記が動きましたが、譲渡所得の申告が必要なケースではありませんか?もしそうだとしたら申告してね」という旨の「お尋ね」が、破産管財人宛に届くことがあります。
 破産管財案件であっても、この流れに沿って、税務署から文書が届くケースが存在します。(経験あり)

 仮にそうなりましたら、その際は
「破産管財人による換価です。なので非課税かと思います」
と電話回答すればOKです。通常はそれ以上のことは聞かれません。
文書回答するときは、破産手続開始決定通知書のコピーを同封することになります。


3.債務免除を受けたときの税金

(1)個人の場合、税負担は発生しない
 破産者が債務免除を受けると、それにより経済的利益が発生することになりますので、何らかの税金はかかるのか? という疑問が生ずることがあります。
 結論から先にいうと、個人である破産者が受ける債務免除について、税負担は発生しません。

 大きな流れとしては、法令や通達等において、「債務者が資力を喪失して、債務を弁済することが著しく困難である場合に受けた経済的利益に対しては、税負担はなし」という旨にて定められています。
 具体的な規定については、破産者が債務免除を受けた場合、個人が対象になる税目ということで、所得税や贈与税、または消費税の視点から考えることになるのですが、いずれの場合でも、以下に説明しますように、税負担が生じないようになっています。

(2)所得税の規定

(所得税法44条の2)
居住者が、破産法に規定する免責許可の決定又は再生計画認可の決定があつた場合その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合に、その有する債務の免除を受けたときは、当該免除により受ける経済的な利益の価額については、その者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない。

(注)以前は、所得税法基本通達36-17(債務免除益の特例)だったのですが、平成26年税制改正で条文化されました。

 所得税では、上記条文で「資力喪失時の債務免除益は収入にあらず」とされています。収入にはあたらない、と定めているわけです。

(3)贈与税の規定

(相続税法8条)
対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で債務の免除、引受け又は第三者のためにする債務の弁済による利益を受けた場合においては、当該債務の免除、引受け又は弁済があつた時において、当該債務の免除、引受け又は弁済による利益を受けた者が、当該債務の免除、引受け又は弁済に係る債務の金額に相当する金額(対価の支払があつた場合には、その価額を控除した金額)を当該債務の免除、引受け又は弁済をした者から贈与(当該債務の免除、引受け又は弁済が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。

ただし、当該債務の免除、引受け又は弁済が次の各号のいずれかに該当する場合においては、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない。
一 債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、当該債務の全部又は一部の免除を受けたとき。
二 債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その債務者の扶養義務者によつて当該債務の全部又は一部の引受け又は弁済がなされたとき。


 贈与税では、上記本文で「原則は贈与により取得した財産である」、ただし書きで「資力喪失時の債務免除益はこの限りではない」とされています。つまり資力喪失時の債務免除益には税負担はありません。

(4)消費税の規定

(消費税法基本通達12-1-7:債務免除)
事業者が、課税仕入れの相手方に対する買掛金その他の債務の全部又は一部について、債務免除を受けた場合における当該債務免除は、仕入れに係る対価の返還等に該当しないことに留意する。


 消費税においては少々ニュアンスが異なります。
 そもそも仕入債務(買掛金等)のマイナスがあった場合に、それが値引や返品によるものであれば、それは消費税の計算上、仕入からマイナスしなければならないという規定があります。これを「仕入に係る対価の返還等」と呼びます。

 債務を免除された場合、その効果としては上記の値引・返品も近いものがあります。
 なので、ではこの債務免除も「仕入れに係る対価の返還等」に該当するのか?という考え方が出てくるのですが、それに対しては上記通達で「それには該当しませんよ」と示しているわけです。
 また、仕入債務でない借入金債務については、その消滅については消費税がかかる取引ではありませんので、消費税の計算上に影響が出るものではありません。


4.個人の消費税の申告
消費税の申告についての考え方は、基本的には法人の場合と同じですが、個人の場合に注意する点として以下のものが挙げられます。

(1)納税義務者であるか?
 もともと個人事業を行っていない人、例えば単なるサラリーマンが破産者となった場合には、その管財人が仮に消費税の課税取引(例えば建物の売却)を行ったとしても、それについては消費税の申告は不要です。

(2)課税期間はどうなっているか?
 個人の場合には1月1日から12月31日までを課税期間とし、その分の消費税の申告を翌年の3月31日までに行います。つまり暦年単位の税計算が原則となります。
 ただし、あらかじめ課税期間を短縮しているケースもありますので、その際は短縮の届出の内容に応じ、1月1日から3ヶ月毎、または1月1日から1ヶ月毎を課税期間として申告を行うことになります。

5.還付が期待されるケース

(1)消費税の還付
 破産者個人が消費税の課税事業者である場合には、申告を行うことにより還付税額が生ずることがあります。

(2)源泉所得税の還付
 破産者個人が給与所得者であったような場合で、毎月の給与から控除されている源泉所得税がある場合には、所得税の確定申告を行うことにより、納めすぎていた所得税が還付されることがあります。

(3)予定納税額の還付
 破産者個人が事業を営んでいた場合に、前年の所得税額が一定以上であることにより、当年において予定納税を行っていることがあります。この予定納税により既に納めている税額が、算出された年税額より多い場合には、所得税の確定申告を行うことにより差額が還付されます。

(4)損失の繰戻しによる還付
 ①規定内容
 破産者個人が継続して青色申告を行っていることが条件なのですが、
・ある年の所得計算をしたときに損失が生じている場合で、
・その年の前年の確定申告では所得が生じて所得税を納めているとき
・その年の損失の額を、前年の所得金額から控除して前年の税額を計算し直して、結果としての税額の差額を計算し、
・その差額の税額を還付請求することができる
という制度があります。これを損失の繰戻しといいます。

(所得税法140条:純損失の繰戻しによる還付の請求)
青色申告書を提出する居住者は、その年において生じた純損失の金額がある場合には、当該申告書の提出と同時に、納税地の所轄税務署長に対し、第1号に掲げる金額から第2号に掲げる金額を控除した金額に相当する所得税の還付を請求することができる。
一 その年の前年分の課税総所得金額、課税退職所得金額及び課税山林所得金額につき第三章第一節(税率)の規定を適用して計算した所得税の額
二 その年の前年分の課税総所得金額、課税退職所得金額及び課税山林所得金額から当該純損失の金額の全部又は一部を控除した金額につき第三章第一節の規定に準じて計算した所得税の額
(中略)
5 居住者につき事業の全部の譲渡又は廃止その他これらに準ずる事実で政令で定めるものが生じた場合において、当該事実が生じた日の属する年の前年において生じた純損失の金額があるときは、その者は、同日の属する年の前年分及び前前年分の所得税につき青色申告書を提出している場合に限り、同日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、納税地の所轄税務署長に対し、当該純損失の金額につき第一項から第三項までの規定に準じて政令で定めるところにより計算した金額に相当する所得税の還付を請求することができる。


 イメージとしては法人税における「欠損金の繰戻還付」と同じです。

・破産者が事業を営み、連続して青色申告書を提出しており、
・近々の申告済年においては所得税額を納めていて、
・破産前後で、事業としては大赤字になりそうだ。

という事情であれば、税還付の可能性が高いといえます。

 所得税法140条1項においては「純損失の金額がある申告書の提出と同時に、還付請求する」とあるのですが、同条5項においては「事業の全部の譲渡又は廃止その他これらに準ずる事実で政令で定めるものが生じた場合」には適用範囲が少し広がり、
その事実の前年に損失が発生していれば
→前々年の所得から控除して同様に計算することができる
とあります。
 したがって「破産により事業を廃止した場合」には、適用年度が広がることになりますのでその点も注意して下さい。

 ②事業の廃止は必須

(所得税法施行令272条:事業の廃止等に準ずる事実等)
法140条第5項(事業の全部譲渡等の場合の純損失の繰戻しによる還付の請求)に規定する政令で定める事実は、事業の全部の相当期間の休止又は重要部分の譲渡で、これらの事実が生じたことにより同項に規定する純損失の金額につき法第70条第1項(純損失の繰越控除)の規定の適用を受けることが困難となると認められるもの、とする。


 この規定のためには、実質的に事業を廃止したことが必要になります。
 ですから個人事業を廃止し、税務署に「個人事業の廃業届」を提出し、その後は給与所得や年金所得のみで生活を行うときに適用がある、とお考えください。
 その意味では「破産手続そのものだけでは、この所得税法140条5項の適用にはならない」と考えるのが無難です。

 破産手続はしたものの、個人事業そのものは継続しているというケースも稀に存在します。
 そのようなケースでは、この規定の適用は困難である、ということは念のためご理解ください。
 

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